【ストーリー】
俺はカメラマンとして、二十年近く都会を駆け回ってきた。
納期、修正、数字、炎上。好きだったはずのカメラも、 いつしか仕事の道具でしかなくなっていた。
だから俺は、逃げるように田舎へ移住した。
借りたのは、少し古びた一軒の古民家。
縁側の先には青々とした田んぼが広がり、遠くから川のせせらぎが聞こえる。
網戸越しに漂う草と土の匂い。畳、扇風機、麦茶、軒先で揺れる風鈴。
「ふう……これが憧れの田舎暮らしか。いいな……」
仕事は今どきオンラインでどうにでもなる。心配だった近所付き合いも、 この村の人たちは思っていたよりずっと気さくだった。
「野菜、余ったから持っていきな」「困ったことがあったら言いなよ」
玄関先にナスやトマトが置かれ、道ですれ違えば誰かしらが声をかけてくれる。
都会では味わえなかった温かさが、ここにはあった。
そんな暮らしにも慣れてきた、移住から一か月ほどたった夏の午後。
ミーン、ミンミンミンミン。
蝉の声が古い屋根瓦に染み込むように響いていた。俺は縁側に座り、 麦茶を片手に田んぼを眺めていた。
そのときだった。
「おじさーん! 今日も一人でしょぼくれてんのー?」
庭先から、やけに元気な声が飛んできた。
顔を上げると、門の前に小柄な女性が立っていた。
近所に住むヒナだ。
茶色い髪を短いポニーテールに結び、瞳は印象的な黄色。
夏の日差しでほんのり焼けた肌に、 黄色のタンクトップとデニムスカート。
田舎育ちの元気娘といった雰囲気だった。
近所でも評判の可愛い娘らしいが、性格はなかなか生意気だ。
人懐っこく、距離が近い。
そして、やたらと俺をからかってくる。
「また来たのか」
「あー、こんな美少女が来てやってるのに、ひどくない!?」
「自分で美少女って言うな」
「事実じゃん? おじさん、ほんとはちょっと嬉しいくせに」
ヒナは自分の家のような顔で上がり込み、台所へ向かった。
ガチャッ、と冷凍庫を開ける音。
「あ、アイスあるじゃん」
「おい、勝手に開けるなよ」
「まあまあ、いいじゃん」
俺の抗議など聞く気もないらしい。ヒナはアイスを一本取り出し、 包装を破って縁側へ戻ってきた。
この一か月、彼女は何かと理由をつけて俺の家へやって来る。
最初は近所への挨拶程度だったはずが、今ではほとんど日課だ。
静かな田舎暮らしを求めて来たはずなのに、 ヒナが現れてから俺の日常は少し騒がしくなった。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
「そういえばさ」
アイスをかじりながら、ヒナがこちらを見る。
「おじさんって、カメラマンだったんでしょ? あたしのこと撮ってよ!」
「もう仕事で人を撮るのはやめたんだよ」
「仕事じゃないじゃん。あたしみたいな美少女、なかなか撮れないよ?」
「だから、自分で美少女って言うな」
「おじさん、ほんとは撮りたいんでしょ?」
まったく、どこまでも生意気な娘だ。
けれど、そう言われると、押し入れの奥へしまい込んだカメラバッグが頭をよぎった。
二十年近く手になじんだ重み。ファインダー越しに世界を切り取る感覚。
都会で擦り切れ、もう二度と楽しいとは思えないと決めつけていたもの。
「……少しだけだぞ」
「ふふん。やっぱり撮りたいんじゃん」
撮影場所は、家の裏手に広がる田んぼ道だった。
青々とした稲が風に揺れ、遠くには低い山並み。
高い夏空を、 白い入道雲がゆっくり流れていた。
「おじさーん、こう?」
ヒナはあぜ道に立ち、片手を腰に当てて振り返った。
黄色いタンクトップ。デニムスカート。むき出しの細い腕と脚。
サンダルの足元では、雑草と小さな花が揺れている。
悔しいが、様になっていた。いかにも「田舎の夏」といった光景だ。
「もう少し右。ひまわりの前に立て」
「注文多いなあ。元プロってやつ?」
「撮ってほしいって言ったのは、お前だろ」
「はいはい。美女は大変だねえ」
文句を言いながらも、ヒナは素直に動く。
ひまわり畑の前で笑い、用水路の小さな橋へ腰掛け、田んぼ道を振り返る。
シャッターを切るたび、忘れていた感覚が指先に戻ってくる。
光を探す。影を読む。一瞬の表情を待つ。
「おじさん、ちゃんと可愛く撮れてる?」
「黙っていればな」
「ひどっ。喋ってても可愛いじゃん」
「うるさい美女は撮りにくい」
「美女は認めるんだ?」
「……揚げ足を取るな」
ヒナはけらけらと笑いながら、ひまわりの間を走った。
その瞬間、ひときわ強い風が吹いた。
デニムスカートの裾が、ふわりとめくれ上がる。
目に飛び込んできたのは、純白の下着。
俺は反射的にシャッターを切ってしまった。
カシャッ。
「……」 「……」 俺とヒナの動きが、同時に止まった。
ヒナは一拍遅れて裾を押さえ、こちらを見た。
「ちょ、今の撮った!?」
「……すまん」
だが、ヒナは怒るどころか、にやりと口元をつり上げた。
「ふふっ。おじさん、ラッキーだね」
「いや、今のは偶然で……」
「偶然? へえ〜?」
ヒナはわざとらしく俺の顔をのぞき込む。
「おじさん、顔赤いよ?」
「暑いだけだ」
「ほんとかなあ? ドキドキしちゃったんじゃないの?」
「してない」
「うそつけー。目、泳いでるもん」
ヒナは勝ち誇ったように笑う。さっきの動揺など、なかったかのような顔だ。
「ちゃんと撮れてたら見せてよ」
「……見たいのか?」
「あたしが可愛く写ってるかもしれないじゃん?」
「今のは消す」
「えー、記念すべきラッキーショットなのに」
「変な名前をつけるな」
「今回はサービスってことで。ほら、次も可愛く撮ってよね」
余裕たっぷりの笑顔。からかっているのは、まだヒナのほうだった。
けれど俺は、ファインダー越しに見た一瞬の動揺と、その後の強がる笑みが頭から離れなかった。
翌日
ヒナはセーラー服に着替えて現れた。
「似合う?」
「……似合ってる」
「ふふん。最初からそう言えばいいのに」
ヒナは得意げに笑った。けれど、俺がカメラを構えると、その笑みがほんの少し揺れる。
「縁側に座れ。アイスを持って」
「注文が自然になってきたね、おじさん」
「お前も慣れてきただろ」
「……別に」
ヒナは縁側に腰を下ろし、白いアイスを手に取った。扇風機の風が、セーラー服のスカーフを小さく揺らす。
(カメラを向けただけで、息が少し浅くなってる。俺はどこまで撮っていいんだ……)
ヒナはアイスの先端へ、ゆっくり舌を這わせた。
溶け始めた白いアイスが舌先に絡み、滴が落ちる前に慌てて口へ含む。
(……やばい。あの舐め方、わざとなのか?)
白いアイスが下唇を濡らす。それを舌先で拭うように舐め取り、再びゆっくりと咥え込む。
カシャ。
俺は無意識にシャッターを切っていた。
ヒナはアイスを口から離し、こちらを見て小さく笑った。唇の端には、溶けた白いアイスが残っている。
「どう? ちゃんと撮れてる?」
「……ああ」
「さっきより無言じゃん」
「集中してるだけだ」
「ふふっ。顔、赤いよ?」
ヒナは再びアイスを口に含み、今度は少し深めに咥えて、ゆっくり引き抜いた。
溶けたアイスが顎を伝い、白い襟元へ落ちそうになる。
(完全に俺を意識してる。反応を見て、わざとやってる……。
それでも、カメラを向けると耳まで赤い)
ヒナは扇風機の風に当たるように首を傾げた。
首筋の汗が、ゆっくり鎖骨へ落ちていく。セーラー服の胸元も、わずかに汗で湿っていた。
「……あんまり、じっと見ないでよ」
「撮影だ」
「それ、ずるい」
「撮ってほしいって言ったのは、お前だろ」
「……そうだけど」
ヒナはアイスを舐めながら、目だけでこちらを睨んだ。
いつもの生意気さとは違う、熱を帯びた視線だった。
扇風機の音。蝉の声。畳に落ちる午後の日差し。
田舎の夏は、思っていたよりずっと騒がしい。そして、思っていたよりずっと甘かった。
ヒナは柱にもたれ、ゆっくりと脚を開いた。その間から、白い下着がわずかに覗く。
「お、おい。見えてるぞ」
「……見せてるの」
カシャ。カシャ。
俺は戸惑いながらも、誘われるようにシャッターを切った。
ファインダー越しに追ううち、下着にじわりと湿りがにじんでいることに気づく。
「……おい」
「おじさんに、あたしの全部を見てほしい……」
「……いいのか?」
「うん……」
俺はカメラマンとして、二十年近く都会を駆け回ってきた。
納期、修正、数字、炎上。好きだったはずのカメラも、 いつしか仕事の道具でしかなくなっていた。
だから俺は、逃げるように田舎へ移住した。
借りたのは、少し古びた一軒の古民家。
縁側の先には青々とした田んぼが広がり、遠くから川のせせらぎが聞こえる。
網戸越しに漂う草と土の匂い。畳、扇風機、麦茶、軒先で揺れる風鈴。
「ふう……これが憧れの田舎暮らしか。いいな……」
仕事は今どきオンラインでどうにでもなる。心配だった近所付き合いも、 この村の人たちは思っていたよりずっと気さくだった。
「野菜、余ったから持っていきな」「困ったことがあったら言いなよ」
玄関先にナスやトマトが置かれ、道ですれ違えば誰かしらが声をかけてくれる。
都会では味わえなかった温かさが、ここにはあった。
そんな暮らしにも慣れてきた、移住から一か月ほどたった夏の午後。
ミーン、ミンミンミンミン。
蝉の声が古い屋根瓦に染み込むように響いていた。俺は縁側に座り、 麦茶を片手に田んぼを眺めていた。
そのときだった。
「おじさーん! 今日も一人でしょぼくれてんのー?」
庭先から、やけに元気な声が飛んできた。
顔を上げると、門の前に小柄な女性が立っていた。
近所に住むヒナだ。
茶色い髪を短いポニーテールに結び、瞳は印象的な黄色。
夏の日差しでほんのり焼けた肌に、 黄色のタンクトップとデニムスカート。
田舎育ちの元気娘といった雰囲気だった。
近所でも評判の可愛い娘らしいが、性格はなかなか生意気だ。
人懐っこく、距離が近い。
そして、やたらと俺をからかってくる。
「また来たのか」
「あー、こんな美少女が来てやってるのに、ひどくない!?」
「自分で美少女って言うな」
「事実じゃん? おじさん、ほんとはちょっと嬉しいくせに」
ヒナは自分の家のような顔で上がり込み、台所へ向かった。
ガチャッ、と冷凍庫を開ける音。
「あ、アイスあるじゃん」
「おい、勝手に開けるなよ」
「まあまあ、いいじゃん」
俺の抗議など聞く気もないらしい。ヒナはアイスを一本取り出し、 包装を破って縁側へ戻ってきた。
この一か月、彼女は何かと理由をつけて俺の家へやって来る。
最初は近所への挨拶程度だったはずが、今ではほとんど日課だ。
静かな田舎暮らしを求めて来たはずなのに、 ヒナが現れてから俺の日常は少し騒がしくなった。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
「そういえばさ」
アイスをかじりながら、ヒナがこちらを見る。
「おじさんって、カメラマンだったんでしょ? あたしのこと撮ってよ!」
「もう仕事で人を撮るのはやめたんだよ」
「仕事じゃないじゃん。あたしみたいな美少女、なかなか撮れないよ?」
「だから、自分で美少女って言うな」
「おじさん、ほんとは撮りたいんでしょ?」
まったく、どこまでも生意気な娘だ。
けれど、そう言われると、押し入れの奥へしまい込んだカメラバッグが頭をよぎった。
二十年近く手になじんだ重み。ファインダー越しに世界を切り取る感覚。
都会で擦り切れ、もう二度と楽しいとは思えないと決めつけていたもの。
「……少しだけだぞ」
「ふふん。やっぱり撮りたいんじゃん」
撮影場所は、家の裏手に広がる田んぼ道だった。
青々とした稲が風に揺れ、遠くには低い山並み。
高い夏空を、 白い入道雲がゆっくり流れていた。
「おじさーん、こう?」
ヒナはあぜ道に立ち、片手を腰に当てて振り返った。
黄色いタンクトップ。デニムスカート。むき出しの細い腕と脚。
サンダルの足元では、雑草と小さな花が揺れている。
悔しいが、様になっていた。いかにも「田舎の夏」といった光景だ。
「もう少し右。ひまわりの前に立て」
「注文多いなあ。元プロってやつ?」
「撮ってほしいって言ったのは、お前だろ」
「はいはい。美女は大変だねえ」
文句を言いながらも、ヒナは素直に動く。
ひまわり畑の前で笑い、用水路の小さな橋へ腰掛け、田んぼ道を振り返る。
シャッターを切るたび、忘れていた感覚が指先に戻ってくる。
光を探す。影を読む。一瞬の表情を待つ。
「おじさん、ちゃんと可愛く撮れてる?」
「黙っていればな」
「ひどっ。喋ってても可愛いじゃん」
「うるさい美女は撮りにくい」
「美女は認めるんだ?」
「……揚げ足を取るな」
ヒナはけらけらと笑いながら、ひまわりの間を走った。
その瞬間、ひときわ強い風が吹いた。
デニムスカートの裾が、ふわりとめくれ上がる。
目に飛び込んできたのは、純白の下着。
俺は反射的にシャッターを切ってしまった。
カシャッ。
「……」 「……」 俺とヒナの動きが、同時に止まった。
ヒナは一拍遅れて裾を押さえ、こちらを見た。
「ちょ、今の撮った!?」
「……すまん」
だが、ヒナは怒るどころか、にやりと口元をつり上げた。
「ふふっ。おじさん、ラッキーだね」
「いや、今のは偶然で……」
「偶然? へえ〜?」
ヒナはわざとらしく俺の顔をのぞき込む。
「おじさん、顔赤いよ?」
「暑いだけだ」
「ほんとかなあ? ドキドキしちゃったんじゃないの?」
「してない」
「うそつけー。目、泳いでるもん」
ヒナは勝ち誇ったように笑う。さっきの動揺など、なかったかのような顔だ。
「ちゃんと撮れてたら見せてよ」
「……見たいのか?」
「あたしが可愛く写ってるかもしれないじゃん?」
「今のは消す」
「えー、記念すべきラッキーショットなのに」
「変な名前をつけるな」
「今回はサービスってことで。ほら、次も可愛く撮ってよね」
余裕たっぷりの笑顔。からかっているのは、まだヒナのほうだった。
けれど俺は、ファインダー越しに見た一瞬の動揺と、その後の強がる笑みが頭から離れなかった。
翌日
ヒナはセーラー服に着替えて現れた。
「似合う?」
「……似合ってる」
「ふふん。最初からそう言えばいいのに」
ヒナは得意げに笑った。けれど、俺がカメラを構えると、その笑みがほんの少し揺れる。
「縁側に座れ。アイスを持って」
「注文が自然になってきたね、おじさん」
「お前も慣れてきただろ」
「……別に」
ヒナは縁側に腰を下ろし、白いアイスを手に取った。扇風機の風が、セーラー服のスカーフを小さく揺らす。
(カメラを向けただけで、息が少し浅くなってる。俺はどこまで撮っていいんだ……)
ヒナはアイスの先端へ、ゆっくり舌を這わせた。
溶け始めた白いアイスが舌先に絡み、滴が落ちる前に慌てて口へ含む。
(……やばい。あの舐め方、わざとなのか?)
白いアイスが下唇を濡らす。それを舌先で拭うように舐め取り、再びゆっくりと咥え込む。
カシャ。
俺は無意識にシャッターを切っていた。
ヒナはアイスを口から離し、こちらを見て小さく笑った。唇の端には、溶けた白いアイスが残っている。
「どう? ちゃんと撮れてる?」
「……ああ」
「さっきより無言じゃん」
「集中してるだけだ」
「ふふっ。顔、赤いよ?」
ヒナは再びアイスを口に含み、今度は少し深めに咥えて、ゆっくり引き抜いた。
溶けたアイスが顎を伝い、白い襟元へ落ちそうになる。
(完全に俺を意識してる。反応を見て、わざとやってる……。
それでも、カメラを向けると耳まで赤い)
ヒナは扇風機の風に当たるように首を傾げた。
首筋の汗が、ゆっくり鎖骨へ落ちていく。セーラー服の胸元も、わずかに汗で湿っていた。
「……あんまり、じっと見ないでよ」
「撮影だ」
「それ、ずるい」
「撮ってほしいって言ったのは、お前だろ」
「……そうだけど」
ヒナはアイスを舐めながら、目だけでこちらを睨んだ。
いつもの生意気さとは違う、熱を帯びた視線だった。
扇風機の音。蝉の声。畳に落ちる午後の日差し。
田舎の夏は、思っていたよりずっと騒がしい。そして、思っていたよりずっと甘かった。
ヒナは柱にもたれ、ゆっくりと脚を開いた。その間から、白い下着がわずかに覗く。
「お、おい。見えてるぞ」
「……見せてるの」
カシャ。カシャ。
俺は戸惑いながらも、誘われるようにシャッターを切った。
ファインダー越しに追ううち、下着にじわりと湿りがにじんでいることに気づく。
「……おい」
「おじさんに、あたしの全部を見てほしい……」
「……いいのか?」
「うん……」

